24時間安心の太陽光発電でもっと便利にブログ:20201216
記憶の軸が少しずつずれはじめたママが、
姉の家族と暮らすようになって十年になる。
ママの容態が急変することはなかったが、
記憶の糸は緩やかに、しかし確実に細くなっていく…
今では、ママにとって
毎日会えないわたくしは、
どこかのお姉さんであったり、
誰かの奥さんであったりする。
そんなママが去年の春、
急な発熱で慌ただしく入院した。
そのことを告げる電話での姉のゆっくりとした口調が、
かえってママの緊迫した状況をうかがわせた。
ナースステーションからよく観察できる位置のベッドで
ママは眠っていた。
義歯をはずしたくち元はくぼみ、
そこから息が洩れ続けることだけを祈りながら
蒼白いママの顔をみつめた。
とうとう…という言葉が頭を過ぎる。
ありがたいことに、
熱は上下しながらも少しずつ平熱に近づいていき、
入院からみっか後、一般病棟の個室に移ることができた。
快方に向かってはいたが
熱発の原因が不明とのことで、
姉とわたくしは
交代で1日中ママに付添った。
体温が安定しないことが不安だったこともあるが、
ママと二人きりになれる時間を
わたくしは大切にしたかった。
ここなら、今なら、照れずに思いきりやさしくできる…
食事前、おしぼりで手を拭いてやると、
「ありがとうございます。すみませんねぇ」と
他人行儀なことを言う。
ミキサーで砕いた形のない食事でも、
「ああ、おいしい」と目を細め、
介助するわたくしに、
「ねえさんも、おあがんなさい」と気を遣う。
童謡のCDを流すと、
言葉を覚えはじめた子どものように語尾だけをくちずさみ、
指で調子をとる。
多くの言葉を忘れてしまっているはずなのに
プラス指向の言葉だけが出てくることは、
ママを世話するわたくしにとって
何より心安らぐことだった。